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大阪地方裁判所 昭和58年(ワ)647号 判決 1985年1月25日

原告

株式会社大勝水産

右代表者

田中勇

右訴訟代理人

兵頭厚子

被告

株式会社京阪青果卸売市場

右代表者

長谷川正一

右訴訟代理人

松浦武二郎

松浦正弘

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

理由

一請求原因1の事実は、当事者間に争いがない。

二ところで、本件の争点の中心は、原告と被告との鮮魚類の取引が売買か販売委託かという点にある。そこで、右の点について検討する。

1  まず、証人後藤誠三は、原告は、主として大手スーパーや料理店に鮮魚類の卸売りをすることを業とするものであり、鮮魚類の競り売りはしていない、販売した鮮魚類の値段は、出荷時までには相場により決まつていて販売先に伝票により通知するのが普通であるが、多くの取引があるときはその後当日の午前一一時ころまでに値段を通知することもある、原告は、被告から頼まれて、昭和五五年一〇月末ころから被告に対して鮮魚類を販売するようになつた、被告は鮮魚類を扱うのはこれが初めてであつたため、原告は、被告からの求めにより、被告に対し、当初二〇日間ほど原告の従業員一名を鮮魚類の販売方法の指導のため派遣した、原告は、被告に対して午前六時ころまでに鮮魚類を納品していたが、納品する鮮魚類の種類及び数量は、被告からの電話による注文により決まり、原告から被告に対して注文を取ることはほとんどない、原告は、被告から、被告の売却した鮮魚類の売却価格について報告を受けたことはない、被告に対する販売代金については毎月一〇日、二〇日及び月末にそれぞれ締めて請求していたが、被告からの送金額は毎回原告からの請求金額と食い違つており、その不足分が次第に累積していつた、原告は、度々被告に対し右不足分の支払を請求していたが、被告は、右不足分の存在することを認めていて、原告と被告との取引が売買ではなく販売委託である旨主張したことはなかつた、原告と被告とは、昭和五六年五月ころ、同年五月一二日現在における不足分三六三万九三二八円は棚上げして毎月一〇万円ずつ分割して支払うことを合意した、そこで、原告は、同年五月三〇日売掛台帳記載の右不足額を帳簿上別勘定に振り替えた、被告は、その後額面金額一五〇万円の小切手を持参して右不足分の残余は免除してほしい旨申し入れてきたが、原告はこれを拒否した、大要以上のような証言をしている。

そして、原告が原告の被告に対する売掛台帳であるとして提出した甲第一号証には、昭和五五年一〇月二九日から昭和五六年七月三〇日までの売上金額及び受入金額の記帳があり、また、右甲第一号証と原告が被告に対する別勘定の売掛台帳であるとして提出した甲第二号証とによれば、原告が昭和五六年五月三〇日付で右甲第一号証の売掛台帳上の同年五月一二日現在の売掛金残高と同額の三六三万九三二八円を右甲第二号証の売掛台帳に振り替え記載していること並びに右甲第二号証の売掛台帳上同年六月二日及び同年七月一日に被告から各一〇万円ずつ入金があつた旨の記載があることが認められる。

そして、右証人後藤誠三の証言及び甲第一、第二号証が措信するに足るものであるとすれば、原告と被告との鮮魚類の取引は原告主張のとおり売買であると認めえなくはないようにみえる。

2  しかしながら、証人川原生則は、証人後藤誠三の前記証言に対し、被告は、卸売市場法による地方卸売市場を経営する会社であり、昭和五五年一〇月ころ店舗を拡張し、青果以外の商品の卸売りをも始めることとなり、各種業種について入店者を募集したが、鮮魚部門については入店希望者がなかつたため、原告に頼んで、入店してもらつた、右の経緯があるので、被告は、原告からは入店した店舗の権利金や賃料をもらわなかつた、原告は、従業員一名を派遣して鮮魚類を販売していたが、もうからないという理由で二〇日間ほどで撤退してしまつた、そこで、被告は、やむをえず、被告が原告やその他舞鶴の丸七水産、鳥取の大海水産、大阪の阪水物産等から委託を受けて鮮魚類の競り売りをすることになつた、しかし、原告とは前記の経緯があるので、原告からは委託販売手数料をもらわなかつた、原告から納入を受ける鮮魚類の種類と数量は原告まかせで、被告から注文したことはない、原告からは朝六時ころ鮮魚類が入荷し、被告は、これを六時過ぎから三〇分くらいの間に競り売りの方法により販売した、原告から入荷した鮮魚類には希望価格が付されていたが、被告の販売した価格は、原告の希望価格より安いことが多かつた、被告は、毎日午前中に電話で原告に対し販売結果を報告していた、被告は、毎日の販売結果について品名、数量、金額を記載した仕切精算書を作成し、これに基づき原告に対する買掛帳を作成していた、昭和五五年一二月ころ、原告から、被告の販売価格が原告の希望価格よりも安すぎると苦情があつたが被告は、頑張つて売るからと答えて、原告に出荷を続けてもらつた、昭和五六年五月ころ、原告から、右希望価格と販売価格との差額についてどうしてくれるのかという申入れがあり、被告は、販売代金としては支払済みであるとして右差額の支払を拒否したが、見舞金を支払うことになつた、そして、被告は、原告に対し、見舞金として、同年六月二日及び同年七月二日に各一〇万円ずつ支払い、更に、その後、原告の要求している右差額の約半額の額面金額の小切手を持参したが、原告は、その受領を拒否した、おおむね以上のような証人後藤誠三の前記証言と主要な点で全く相反する証言をしている。

しかも、被告が証人川原生則の証言にいう仕切精算書であるとして提出する乙第三号証ないし第一一四号証及び原告に対する買掛帳であるとして提出する乙第一号証を原告の被告に対する売掛台帳である前記甲第一号証と対比すると、被告の右仕切精算書及び買掛帳記載の被告の販売価格の方が一般的にいつて原告の右売掛台帳記載の被告に対する売上金額よりも低いことが明らかである。そして、被告の右仕切精算書及び買掛帳が作為的に作成されたものであるとまで認めるに足りる証拠はないから、そうすると、もし原告と被告との取引が原告の主張するように売買であるとすれば、被告はなぜ原告からの購入価格よりも低い価格で数か月も継続的に鮮魚類を販売し続けたかの疑問が生ずることになる。

3 右1、2に見てきたところによれば、原告と被告とはその取引の内容につき十分に確認をしないまま原告は売買であると思い込み、被告は販売委託であると思い込んで取引を行つてきたのではないかとの疑いもないではなく、右2に掲記の乙号各証及び証人川原生則の証言と対比すると右1掲記の各証拠のみでは原告主張のように右取引を売買であるとまで認めるには足りないものといわざるをえず、他に右原告主張事実を認めるに足りる証拠もない。

三そうすると、原告の本訴請求は、その余の点につき判断するまでもなく理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官石井健吾)

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